蟄虫坏戸——むしかくれて、とをふさぐ。秋分の次候です。寒さを察した虫たちが土にもぐり、穴の入り口をふさぎはじめる頃。
この候には、対があります。三月の蟄虫啓戸——こもっていた虫が、戸を啓く。春に開けた戸を、秋に閉める。暦は半年をまたいで、開け閉めをひと組にしています。
戸をふさぐのは、こもるためだけではありません。閉めるから、中のぬくもりが保たれる。閉めるから、外の冬が入ってこない。閉めることは、退場ではなく、守りの仕事です。
人にも、夜ごとの戸締まりがあります。カーテンを引く。明かりを落とす。そして最後に、まぶた。あれは、生まれつき体に付いている雨戸です。
ただ、現代の夜は、戸が閉まりにくくなりました。手の中の画面、頭の中の仕事の続き、返しそびれた連絡。体は布団の中にいるのに、戸のいくつかが開いたまま。すきま風の入る部屋で眠っているようなものです。
施術の終わりぎわ、目を閉じたまま「もう今日は店じまいでいいですか」と笑う方がいます。いい言葉だと思います。開けた戸の数だけ、閉める戸がある。店じまいは、営業の一部です。
虫たちの順番は、間違いません。まず、ふさぐ。それから、休む。ふさぎ終える前に眠りだす虫は、いないのです。
閉め忘れた戸をぜんぶ思い出す必要はありません。今夜はどれかひとつ。画面なら画面、続きなら続き。ひと部屋ぶんの戸締まりで、部屋の温度は変わります。
春になれば、戸を啓く候が、ちゃんと巡ってきます。だから安心して、閉めていい。開けるほうの順番は、きちんと閉じた者のところへ、半年おくれて回ってくるのですから。


