ちょっとしたひと言に、かちんとくる。家族の何気ない態度に、思った以上に強くいら立ってしまう。
そして後から、「どうしてあんなに怒ってしまったんだろう」と、自分を責めてしまう。
40代後半から50代にかけて、こうした感情の波に戸惑う女性は少なくありません。これは性格が変わったのではなく、体の中で「気」のめぐりに変化が起きているサインかもしれません。
イライラは、ふたを閉めたまま火にかけた鍋に似ている
イライラが募る状態は、ふたをしたまま強火にかけたお鍋を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。
中の煮汁がぐつぐつと沸き立っているのに、ふたで押さえつけられている。逃げ場をなくした蒸気は、ふたをカタカタと鳴らし、やがて勢いよく吹きこぼれてしまいます。
東洋医学では、私たちの感情のエネルギーも、これと似た動きをすると考えます。本来ゆるやかに流れているはずの「気」が、行き場をなくして内側にこもると、ちょっとした刺激で一気に吹きこぼれる。これが、抑えようとしても抑えられないイライラの正体のひとつです。
大切なのは、火を強く責めることでも、ふたを必死で押さえつけることでもありません。そっと火を弱め、蒸気の逃げ道をつくってあげることです。
更年期に気が高ぶりやすくなるわけ
更年期には、女性ホルモンのゆらぎが大きくなります。このホルモンは、心の安定に関わる脳の働きとも結びついているため、分泌がゆらぐと、感情のコントロールがふだんより難しくなりやすいのです。
「怒りたくないのに、言葉がきつくなってしまう」。それは意志が弱いからではなく、心と体が大きな変化の途中にあるからです。
この時期の感情の波は、あなたが未熟だからではなく、体が新しいバランスを探している最中のあらわれ。そう知っているだけでも、自分への当たりが少しやわらかくなります。
東洋医学が考える「イライラと肝」
東洋医学では、感情ののびやかさを保つのは「肝(かん)」の役割とされています。
肝は、気をスムーズに流す「交通整理」の働きを担っています。ところが、ストレスや疲れ、ホルモンのゆらぎが重なると、この交通整理が滞ります。気が流れず一か所に溜まると、それが熱を帯び、のぼせ・顔のほてり・怒りっぽさとして立ちのぼってきます。
先ほどの鍋でいえば、肝は「火加減を調整するつまみ」のような存在です。このつまみがうまく働けば、煮汁は静かに、ちょうどよく煮える。イライラへのケアとは、この火加減のつまみに、そっと手を添えてあげることなのです。
気の高ぶりを鎮める「行間」のツボ
高ぶった気をしずめたいとき、鍼灸師として私がよく使うのが、足にある「行間(こうかん)」というツボです。
場所は、足の親指と人差し指の間、水かきの部分の少し上、皮膚の色が変わるあたりのくぼみです。肝の流れの上にあり、こもった熱をそっと逃がす「蒸気の抜け道」のような役割をしてくれるツボとされています。
イライラが溜まっているときほど、押すとつーんと響きやすいのが特徴です。
行間(こうかん)の押し方
人差し指の腹をツボに当て、息をゆっくり吐きながら、少し強めに5秒押し込み、吸いながら指を離します。左右それぞれ5回ほど繰り返してください。
「痛気持ちいい」と感じる強さが目安です。イライラを感じたその場で押しても、就寝前にゆっくり押しても構いません。押しながら、長く息を吐くと、気の抜け道がいっそう開きやすくなります。
気をやわらかく流す、暮らしの工夫
気のめぐりは、日々のちょっとした習慣でもやさしく整えられます。
香りの力を借りる:柑橘やミントなど、すっと抜けるような香りは、こもった気をふわりと流してくれます。お茶やアロマで、気分を切り替える時間を持ってみてください。
酸味のあるものを少し:東洋医学では、ほどよい酸味は肝をいたわる味とされています。お酢の物や梅、柑橘を食卓に取り入れると、肝の働きをそっと支えてくれます。
長く息を吐く:イライラした瞬間、人は呼吸が浅く速くなっています。意識して長く息を吐くだけで、沸きかけた気がすっと鎮まっていきます。
おわりに
イライラしてしまう自分を、どうか責めないでください。それは、あなたが手を抜かずに毎日を生きてきた証でもあります。
鍋の火を少し弱めるように、行間をそっと押して、長く息を吐く。それだけで、こもっていた気はまた、やわらかく流れはじめます。
今日のあなたの心は、ふたを少し開けて、蒸気を逃がしてあげられていますか。がんばり続けた一日の終わりに、自分の気持ちにもそっと風を通してあげてください。
※同じ更年期世代の眠りの悩みについては、こちらの更年期世代に増える「眠りの悩み」、その正体とツボでのケアもあわせて参考にしてみてください。



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