【めぐりの手帖】鴻雁来——先頭は、交代していい

めぐりの手帖

鴻雁来——こうがん、きたる。寒露 [1] の初候です。ツバメが南へ去った空へ、入れ違いに、雁が北からやってきます。四月の鴻雁北と対になった候。空の渡りは、こうして席を譲り合っています。

雁の飛び方には、有名な知恵があります。V字の編隊。先頭がいちばん風を受け、後ろの鳥は前の鳥が起こす流れに乗って、少ない力で飛べる。だから先頭は、固定しないといわれます。疲れる場所だと、みんなが知っているから、交代しながら長い距離を渡っていく。

施術室には、先頭を長く続けている方がよく来られます。仕事でも、家でも、気づけばいつも自分が風を受ける位置にいる。頼まれたわけでもないのに、と本人は笑いますが、体のほうは笑っていません。首と肩が、向かい風の形のまま固まっています。

雁の群れに、先頭を降りることを責める鳥はいません。交代は敗北ではなく、群れ全体が海を渡りきるための設計です。

後ろにつく鳥は、ただ楽をしているのではありません。前の鳥の羽ばたきが起こす流れに乗って、次に先頭へ出るための力を蓄えている。休むことも、編隊の中では立派な役割のうちなのです。

一日の中に、後ろを飛ぶ時間を。誰かの流れに乗せてもらう時間を。眠りは、その最たるものです。夜のあいだだけは、誰も先頭を飛ばなくていい。

「わたしが代わるよ」が言える群れは、強い。家でも職場でも、たぶん同じです。渡り鳥が教えてくれるのは、こういうことです。遠くまで行く群れほど、先頭を、こまめに替えている。

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