「夏はまだ眠れていたのに、涼しくなった途端、夜中に目が覚めるようになって」——秋口の施術室で、毎年きまって増える声です。
寝つきに時間がかかる。明け方にふと目が覚める。日中、これといった理由もなく気持ちが下を向く。どれも、季節の変わり目にそろって顔を出します。
これは、あなたの体が弱ったからではありません。夏仕様だった体が、冬に向けて中身を入れ替えている——いわば体の「衣替え」の最中に起きる、移行期のちぐはぐです。
この記事では、秋に眠りがゆらぐ理由を東西の両側から解きほぐし、衣替えの最中の体をそっと手伝う、夜の過ごし方をお伝えします。
なぜ秋の夜は、眠りがちぐはぐになるのか
まず、日が短くなります。
日照時間が縮むと、体内時計の調律が狂いやすくなります。朝の光で始まり夜の暗さで閉じる一日のリズムが、外の明暗の移ろいに追いつききれず、眠気の訪れる時刻が前後にずれるのです。夕方に急に眠くなったり、夜になると妙に目が冴えたり。この時間割の乱れが、秋のゆらぎの一つ目です。
次に、寒暖差です。
昼は汗ばむのに、朝晩はひやりとする。この一日の中の大きな温度差に、体温を調節する自律神経は、こまめな微調整を一日じゅう強いられます。日中に働きづめの神経は、夜になっても切り替えの支度が遅れがち。眠りのスイッチが、すっと入りにくくなります。
そして、夏の疲れです。
冷房と冷たい飲みもの、寝苦しさで少しずつ削られた体力は、涼しくなってから遅れて表に出てきます。秋の不調の多くは、夏に負った小さな借金の、遅れて届く請求書のようなものです。
日が短くなり、寒暖差に振り回され、夏の借りを返しながら——体はいま、夏物を仕舞って冬物を出す、大がかりな衣替えの真っ最中なのです。
東洋医学の秋は、「収める」季節
東洋医学は、この時季の体を、もう少し積極的にとらえます。秋は、開いていたものを収める季節だ、と。
夏のあいだ、体は汗をかき、熱を外へ外へと発散させて、いわば全開で過ごしていました。秋になると、その広げた陽の気をゆっくり内側へたたみ込み、来たる冬の「ためこむ」季節に備えていきます。木々が葉を落として力を根へ戻すように、人の体も収斂 [1] へと舵を切るのです。
東洋医学の古典『黄帝内経・素問』 [2] は、秋の過ごし方をこう記しています。「早く臥し、早く起きよ」「志を安寧にせよ」——早めに休み、心を波立たせずに過ごしなさい、と。眠くなる時刻が早まるこの季節に、あえて早寝をすすめているのです。
秋の日暮れが早まるにつれ、なんとなく胸がしんとする。あれも、理由のないことではありません。東洋医学で秋に対応する臓は肺、そこに宿る感情は悲しみや憂いとされます。夕暮れの早さに心が静まるのは、体が季節の音叉にそっと共鳴しているだけ、とも言えるのです。
衣替えを手伝う、夜の小さな支度
衣替えは、力ずくではうまくいきません。夏物を無理に押し込むのではなく、一枚ずつ畳んで入れ替えるように、夜の過ごし方も少しだけ秋仕様にずらしていきます。
- 日が落ちたら、部屋の光を一段落とす。煌々とした天井のあかりは、体にまだ昼だと勘違いさせます。手元だけの灯りに切り替えると、その暗さが「そろそろ収める時間」の合図になります。
- 湯船で、いったん緩めてから収める。収めることに気を取られると、秋の体はかえってこわばりがち。ぬるめのお湯にゆっくり浸かって一度ふっとほどいてから休むと、収まりがよくなります。
- 首と足首を、薄いもので守る。寒暖差の秋は、油断すると冷えが忍び込みます。眠っているあいだ、この二か所を一枚覆うだけで、朝までの巡りが変わります。
そして、いちばん大事な一枚。「早く眠っていい」という許可を、自分に出してあげることです。
秋に早く眠くなるのは、だらしなさではなく、季節に正直な体の反応。古い暦がわざわざ「早く臥せ」とすすめたほどですから、夜が長くなった分だけ早く布団へ入るのは、むしろ理にかなっています。
散らかって見える、途中の日々
衣替えの途中がいちばん、クローゼットは散らかって見えるものです。眠りが少しちぐはぐな今も、体はちゃんと、中身の入れ替えを進めている最中。焦って全部を今日じゅうに片づけなくて、大丈夫です。
今夜の一歩は、いつもよりひとつ早い時間に、部屋のあかりを落とすこと。それが、体の衣替えにそっと手を貸す、最初の一手になります。
秋の冷えが気になる方は、寝る前3分でできる!深い眠りに誘う『首元の温めケア』と安眠のツボもあわせてどうぞ。長くなった夜を、少しずつ味方にしていきましょう。


