【めぐりの手帖】蟋蟀在戸——冷えの声は、戸口で鳴く

めぐりの手帖

蟋蟀在戸——きりぎりす、とにあり。寒露 [1] の末候です。蟋蟀と書いて、いまのコオロギのこと。昔は秋に鳴く虫を、まとめてきりぎりすと呼んでいました。

この候の味わいは「戸にあり」の三文字です。夏のあいだ、虫の声は野原の遠くで鳴っていました。それが秋の深まりとともに、庭へ、軒下へ、そして戸口へ。寒くなるほど、声は人の暮らしのそばへ寄ってきます。

清少納言も枕草子で、虫の名を並べて愛でています。千年前から、秋の夜の音は、聞くものでした。

小さな生きものほど、寒さに正直です。体が小さいと、冷えるのもはやい。だから誰より先に気づいて、誰より先に、あたたかいほうへ動く。

人の体で、その役をしているのが足先です。心臓からいちばん遠く、いちばん細いところ。冷えはいつも、体の戸口から始まります。真冬に胴体が冷えるずっと前に、十月の足先が、先に小さく鳴いている。

施術で足に触れていると、冬の来る速さは人によってまったく違うのだと分かります。暦の冬は十一月からでも、足先の冬はもう始まっている方がいる。

夜、布団の中で足が冷たかったら、それは戸口の声です。湯たんぽでも、靴下でも、足湯でも、手当ての形は何でも構いません。大事なのは、声の小さいうちに戸を開けてやることのほうです。

まだ小さいうちに聞いておくと、真冬の体が変わってきます。虫の声と同じで、聞こうと思った夜にだけ、聞こえてくるものですが。コロコロ、リーリー。今夜、窓の外に声はありますか。

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