布団に入っても、頭の中だけが煌々と明かりをつけたまま。体は疲れているのに、首から上だけがやけに冴えてしまう。
一日中気を張って過ごした夜ほど、こんなふうに「頭だけが眠れない」状態になることがあります。
これを東洋医学では、ただの考えすぎとは見ません。体の中で、熱と気の置き場所が偏ってしまったサインとして捉えます。今夜は、上にのぼった熱をそっと下ろしてあげる養生のお話です。
頭に熱がこもり、足が冷える「家」
想像してみてください。一日中、二階の部屋だけで暖房をつけ続けた家を。
夜になると、二階には熱気がこもってむっとしているのに、一階はひんやり冷えきっている。同じ家の中なのに、上と下でまるで温度が違う。
ストレスを抱えた夜の体は、ちょうどこの家に似ています。考えごとや緊張で「気」と「熱」が頭のほうへのぼりっぱなしになり、上半身はほてって冴え、足元は冷たくなる。
東洋医学では、この状態を「上熱下寒(じょうねつげかん)」と呼びます。上に熱、下に寒さ。この偏りがあるかぎり、いくら目を閉じても、頭の熱は冷めてくれません。
なぜストレスで気は上にのぼるのか
東洋医学では、気の流れを整えているのは「肝(かん)」の働きだと考えます。
肝は、のびやかでいることを好む性質を持っています。ところが、緊張やプレッシャー、抑えこんだ感情が続くと、肝の調整がうまくいかなくなります。
すると、本来は全身をめぐるはずの気が、出口を求めて上へ上へとのぼっていく。「頭にカッと血がのぼる」「考えが空回りして止まらない」のは、行き場をなくした気が頭にたまっているサインなのです。
大切なのは、のぼった気と熱を、もう一度体の下のほうへ連れ戻してあげること。家の二階の熱を、一階へ通してあげるようなイメージです。
頭の熱を足へ降ろす「湧泉」のツボ
のぼった熱を下ろすために、鍼灸師として私が頼りにしているのが、足の裏にある「湧泉(ゆうせん)」というツボです。
「泉が湧く」と書くこのツボは、体のいちばん下から、生命のエネルギーが湧き出る場所とされています。足裏という最も下にあるツボだからこそ、上にのぼった気と熱を引き下ろす錨(いかり)のような役割をしてくれます。
場所は、足の裏。足の指を内側にぎゅっと曲げたときに、いちばんへこむところです。土踏まずの少し上、足裏の中心よりやや指寄りにあります。
湧泉(ゆうせん)の押し方
両手の親指を重ねて湧泉に当て、足の中心に向かって、息を吐きながらゆっくり5秒押し込みます。吸いながら離す。これを左右5回ずつ。
布団に入る前、床に座って押すのがおすすめです。押しながら「頭の熱が、足の裏からすーっと抜けていく」とイメージすると、気持ちの切り替えも進みます。冷えが強い日は、足湯やホットタオルで足裏を温めてから押すと、いっそう熱が巡ります。
気を下ろす、夜の小さな習慣
ツボと合わせて、のぼった気を鎮める暮らしの工夫もお伝えします。どれも、頭に集まった意識を体の下のほうへ戻してあげる習慣です。
足首を温める:上半身がほてるからと薄着で過ごすと、足元の冷えが進み、上下の差が広がります。レッグウォーマーや靴下で足元を温めるだけで、熱の偏りはやわらぎます。
長く息を吐く:息を吸うと気は上がり、吐くと気は下りていきます。吐く時間を長くした呼吸を数回繰り返すだけで、のぼった気が静かに降りはじめます。
寝る前のスマホを少しだけ手放す:画面の光と情報は、ただでさえ上にある気を、さらに頭へ集めてしまいます。布団に入る少し前に手放すだけで、頭の明かりは落としやすくなります。
おわりに
頭だけが冴えて眠れない夜は、あなたの心が弱いからではありません。それだけ一日、懸命に頭を使って過ごした証です。
二階にこもった熱を一階へ通すように、湧泉をそっと押して、頭の熱を足へ降ろしてあげましょう。
気が上から下へ、ゆっくりとめぐりはじめたとき、眠りは静かに訪れます。今夜は、足の裏から休んでみてください。
※同じ更年期世代ののぼせや眠りの悩みについては、こちらの更年期世代に増える「眠りの悩み」、その正体とツボでのケアもあわせて参考にしてみてください。



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