「習ったツボ、毎晩ぜんぶやらないとダメですか」——第6回のあと、そんな声をいただきました。
気持ちはよく分かります。合谷、三陰交、照海、神門。教室が進むほどツボは増えて、真面目な方ほど「全部やらなきゃ」と宿題が積み上がっていく。先にお答えします。ぜんぶ、やらなくていいのです。
今回は新しいツボを覚えない回。かわりに、これまでの4穴を「道具箱」として使いこなす——今夜の一穴を選び直すという、鍼灸師が毎日やっていることをお渡しします。
まず、道具箱の中身をおさらい
この教室で据えてきた経穴 [1] は4つ。ひとことずつで振り返ります。
- 合谷(手の甲)——迷ったらここ、の万能穴。頭まわりの重さ、なんとなくの不調に。
- 三陰交(内くるぶしの上)——冷えと巡りの穴。足元から夜が冷える日に。※妊娠中は避けてください。
- 照海(内くるぶしの下)——「まぶたを閉じる脈」の穴。目が冴えて眠れない夜に。
- 神門(手首の小指側)——こころの通用門。考えごとや気持ちの高ぶりが主役の夜に。
こうして並べると、4つで守備範囲がずいぶん広いことが分かります。増やす前に、使い分ける。道具は、数より選び方です。それに、道具箱と言いましたが、ツボは錆びません。使わない週があっても、減りも劣化もしない。その気楽さも、お灸のよいところです。
今夜の一穴は、ふたつの問いで決まる
選び方は、問いをふたつ立てるだけです。
問いその一。「今夜いちばん気になっているのは、どれか」。足が冷たいのか、頭が忙しいのか、目が冴えているのか。今夜の主役をひとつ決めると、穴はおのずと絞られます。
問いその二。「押してみて、どこがいちばん響くか」。候補が2つ残ったら、両方を指で押し比べてください。じんわり心地よく響くほうが、今夜のあなたの穴です。頭で決めきれないときは、体に多数決を取らせる——取穴 [2] で「心地よい位置を優先」してきたこの教室の方針の、穴選び版です。
実は、わたしたち鍼灸師も同じことをしています。今日はこのツボと決め打ちせず、その日の体に触れて、聞いてから決める。ツボ選びは暗記ではなく、毎晩の小さな問診なのです。施術室の会話も、毎回「今日はどこが」から始まります。答えは毎回すこしずつ違う。体は季節と一日の中身で、毎日わずかに別人だからです。昨夜の正解が、今夜の正解とは限りません。
2か所以上やりたい夜のルール
「今夜は足も頭も気になる」という夜も、もちろんあります。そのときのルールは3つだけ。
- 1回のお灸は、多くても3か所まで。たくさん据えるほど効くわけではありません。増やしすぎは、のぼせやだるさ(灸あたり)のもとです。
- 同時にではなく、ひとつずつ順番に。火のついたお灸がからだの上に2つ以上あると、目も手も追いつきません。ひとつ据えて、外して、消してから次へ。この教室では順番方式でいきます。
- 左右で迷ったら、響くほうの側だけでも十分。几帳面に全部をそろえるより、続くことのほうがずっと大事です。
いつ、どのくらいの頻度で
時間は、いつも通りあなたが続けやすい時間で。お風呂の前後1時間、食事の前後30分だけ避けてください。頻度は、毎日でなくて構いません。週に2〜3回、細く長く続くほうが、気合いの三日坊主よりずっと働きます。
安全のためのお約束(毎回同じ8つです)
①熱さを我慢しない(ピリッと来たらすぐ外す)②同じ場所に続けて据えない③顔・粘膜・湿疹や傷のある場所には使わない④妊娠中の方、糖尿病などで感覚が鈍くなっている方、飲酒時・発熱時は自己判断せず、事前に専門家へ相談を⑤換気をして、使用後は水で完全に消火⑥お風呂上がりは皮膚がやわらかく火傷しやすいため避ける(入浴前後1時間空ける)⑦食事の前後30分は避ける(消化のために血流が集まる時間のため)⑧終わったあとにだるさやのぼせ(灸あたり)が出たら、その日は休む。
よくあるつまずき
Q. お気に入りの穴ができました。毎日同じ場所に据えてもいいですか。
A. 肌に聞いてください。赤みや跡が残っていなければ続けて構いませんが、残っているうちは、その場所をひと晩休ませて別の穴へ。カレンダーではなく、肌の色が「今日はお休み」を教えてくれます。
今週の宿題
宿題はひとつ。4つの穴を指で一周して、今夜いちばん響いた穴の名前をメモしておくこと。お灸は据えても据えなくても構いません。そのメモが数日たまると、あなたの体の「今の季節」が見えてきます。
神門の場所があやふやな方は、前回・第6回で復習を。次回は、冷えはじめる季節の新しいツボへ進みます。それでは、また教室で。


