【めぐるのお灸教室】第11回 雨の日に体が重いのは——丘のふもとの泉「陰陵泉」

めぐるのお灸教室

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なぜ、雨の日は朝の体が重いのでしょう。

カーテンを開ける前から、なんとなく分かる。体が重い日の朝の、あの独特の目覚め方。頭に薄い膜が張ったようで、足はぬかるみを歩くように重い。

雨のせいにするのは気のせいだろうか、と長年思っていた方に、今日はいい名前をひとつ紹介します。第11回の新しいツボ、陰陵泉(いんりょうせん)です。

雨の日の重さに、東洋医学は名前を持っている

東洋医学には「湿 [1] 」という言葉があります。外の湿気が増えると、体の中の水はけも鈍って、余分な水気が淀む——雨の日の重だるさを、昔の人はそう捉えました。

つまりあの朝の重さは、怠けでも気のせいでもなく、天気と体がちゃんと連動している証拠です。湿気た日に洗濯物が乾かないのと、理屈としては同じこと。体もまた、干し場のない日を過ごしています。

そしてこの「湿」をさばく係とされるのが、五臓の脾 [2] 。陰陵泉は、その脾の経絡を代表する、水はけのツボです。前回の復溜が「夕方にたまる水」の穴なら、陰陵泉は「天気で淀む水」の穴。道具箱の水まわりが、これでふた通りになります。

名前の通りに、指で登れば着く

このツボの名前は、そのまま地形の描写になっています。

陰は、内側。陵は、丘。泉は、水の湧くくぼみ。——内側の丘のふもとに、泉がある。

膝の内側のすぐ下には、すねの骨の盛り上がりがあります。これが「陵」。陰陵泉は、その丘のふもとのくぼみ、つまり「泉」の位置にあります。名前を読み下せば、探し方まで書いてある。二千年前の命名とは思えない親切設計です。

探し方も、地形の通りに。すねの内側の骨のきわに親指を当てて、足首側から膝へ向かって、ゆっくりなぞり上げてください。丘にぶつかって、指がすっと止まる。そのくぼみが陰陵泉です。

ここは押すと響きやすい場所で、雨の日や、水気のたまった日ほどよく響くと言われます。いつもの方針どおり、多少ずれても、じんわり心地よい一点ならそこで構いません。

準備と、据え方のコツ

道具はいつもの4点。台座付きのお灸、ライター、水の皿、ペン。煙の出ないタイプはこちらです(香りつきとの2択は第6回参照)。

  1. 椅子に座って、膝を軽く立てる。膝の内側が見える、楽な姿勢を先に作ります。
  2. 骨のきわを、下からなぞり上げて印をつける。丘で止まったくぼみに、ペンで一点。
  3. シールを指先に貼り、火をつける。先が赤くなれば十分です。
  4. 膝の角度を保ったまま、印の上へ。膝まわりの皮膚は曲げ伸ばしでよく動きます。据えているあいだは、脚の姿勢を変えないでください。
  5. 心地よいうちに外す。響きやすい場所は、熱さも早めに来ることがあります。ピリッと来たら我慢せず、水の皿へ。

いつ据えるか

時間はあなたが続けやすいときで。お風呂の前後1時間は避けてください。天気予報が雨に変わった日の夜を「陰陵泉の日」と決めておくのも、この穴らしい続け方です。

安全のためのお約束(毎回同じ7つ+今回のひとこと)

①熱さを我慢しない(ピリッと来たらすぐ外す)②同じ場所に続けて据えない③顔・粘膜・湿疹や傷のある場所には使わない④妊娠中の方、糖尿病などで感覚が鈍くなっている方、飲酒時・発熱時は自己判断せず、事前に専門家へ相談を⑤換気をして、使用後は水で完全に消火⑥お風呂上がりは皮膚がやわらかく火傷しやすいため避ける(入浴前後1時間空ける)⑦終わったあとにだるさやのぼせ(灸あたり)が出たら、その日は休む。——膝そのものに腫れ・熱っぽさ・強い痛みがあるときは、お灸で様子を見ず、早めに医療機関へご相談ください。

よくあるつまずき

Q. 押すとかなり痛いのですが、それだけ体が悪いということでしょうか。

A. 痛みの強さは、悪さの量ではありません。もともと響きやすい場所ですし、その日の水気でも変わります。そして、強く押すほど良いわけでも、痛いお灸ほど効くわけでもありません。「じんわり心地よい」まで力を抜いたところが、ちょうどいい深さです。泉は、掘るより、湧くのを待つもの。

今週の宿題

宿題はひとつ。今夜、すねの内側の骨のきわを、足首から膝まで親指でゆっくり一往復なぞってみること。お灸は据えなくて構いません。丘の場所と、指の止まる感触。それさえ手が覚えれば、雨の日の朝の重さに、行き先がひとつできます。

夕方のむくみ向けの復溜は前々回・第9回をどうぞ。次回は、これまでにいただいた「うまくいかない」を一気に引き受ける、つまずきQ&A特集です。

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