「検査では、どこも悪くないって言われるんです」——そう話す方の声は、安心と困惑が半分ずつです。
異常なし。なのに、朝は起きられないし、夕方には電池が切れるし、夜は眠りが浅い。この「病名のつかないしんどさ」を、東洋医学は二千年かけて観察してきました。
今日はその道具箱から、いちばん基本の見方をひとつ。体を「三つの流れ」で見る、気血水の話です。
体は「三つの流れ」でできている
東洋医学では、体は気 [1] ・血 [2] ・水 [3] という三つの要素で成り立ち、それらが過不足なく巡っている状態を健康と考えます。
気は、体を動かすエネルギー。食事と呼吸から取り込まれ、活動で使われます。血は、栄養と潤いを全身へ届ける流れ。水は、体を潤し、余分なものを流します。
病名を探すのではなく、この三つの「流れの帳簿」を見る。それが東洋医学の診方です。
施術で体に触れていると、帳簿は手にも伝わってきます。気虚の方の肌はどこか張りの力が薄く、水滞の方のふくらはぎは、押した指のあとがゆっくり戻る。問診票より先に、体のほうが申告してくることがあります。
体の家計簿——赤字には四つの型がある
帳簿というなら、家計簿にたとえるのがいちばん近いと思います。気は収入と支出、血は仕送りの流通、水は蓄えの潤い。そして赤字には、型があります。
- 気虚(ききょ):収入不足型。疲れやすい、朝がつらい、風邪をひきやすい。眠りでは、夜眠れないより「昼間ずっと眠い」に出やすいタイプです。
- 気滞(きたい):お金はあるのに回らない型。ため息が増える、喉や胸がつかえる、お腹が張る。夜は考えごとで寝つきが悪くなりがちです。
- 血虚(けっきょ):届け先に物資が足りない型。肌や髪が乾く、目が疲れる、爪が割れやすい。眠りは浅く、夢が多く、夜中に目が覚めやすい傾向があります。
- 水滞(すいたい):在庫が偏って積み上がる型。むくむ、体が重だるい、雨の日に弱い。寝ても抜けない重さとして出やすいタイプです。
夕方、靴下のあとがくっきり残る日は、在庫の偏りが足元に出ている日、と読めます。
どれかひとつに決まる人は、ほとんどいません。ふたつ重なるのも、季節で入れ替わるのも普通のこと。「今月はこの赤字が大きいな」くらいの眺め方で十分です。
ちなみに三つは、別々の口座ではありません。気が血と水を動かし、血と水が気を養う。だからひとつの赤字は、放っておくと隣の口座に移ります。気の滞りが長引くと、血も滞る、というように。
タイプ別・最初のひとつだけ
家計の立て直しと同じで、全部を一度にやろうとすると続きません。自分の型に近いところから、ひとつだけ。
気虚さんは、朝の温かい一杯から。気は食事と呼吸からつくられます。まず入りを確保する——収入の話が先です。がんばって運動、はこの型には裏目に出やすいところ。支出を増やす前に、収入と休みを。
気滞さんは、ため息を止めないでください。「幸せが逃げる」と言われますが、東洋医学の目で見ると、ため息は滞った気を逃す、体の自前の弁です。恥じるより、深くつき直す。香りのよいお茶を足せばなおいい。
血虚さんは、夜ふかしを週に一日だけ減らす。東洋医学では、血は夜のあいだに養われると考えられてきました。仕送りは夜に仕分けされるのです。
水滞さんは、湯船と足首回し。たまった在庫は、温めて動かして流します。
「異常なし」は「問題なし」ではない
誤解のないように書いておくと、検査で異常がないのは、良い知らせです。大きな病気が隠れていないと確かめることは何より先にやるべきことで、そこは西洋医学の独壇場です。
ただ、検査は「病気を探す」道具であって、「流れの赤字を見る」道具ではありません。病名の手前にある不調——東洋医学で未病 [4] と呼ぶ領域——には、別の帳簿が要ります。
未病とは「病の、未だ来ざるもの」。まだ病気ではない——それを放置の理由ではなく、手入れの合図と読むのが養生です。どちらが正しいかではなく、道具が違うだけ。両方を使い分ければいいのです。
なお、この型分けはセルフケアの目安であって、診断ではありません。つらさが強いとき、長く続くときは、検査と専門家への相談を先にどうぞ。
今夜の一歩は、四つの型のどれに近いか、丸をつけてみること。丸がつけば、明日から見る場所が決まります。
朝のだるさが気になる方は、朝起きてもだるい人へ|気血を巡らせる5分習慣もあわせてどうぞ。



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