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夜、布団に入って目を閉じたのに、足先だけがいつまでも冷たい。体はもう眠る態勢なのに、そこだけまだ昼の続きを引きずっている——そんな夜が、9月の半ばあたりから増えてきます。
昼はまだ夏の顔をしているのに、夜になると足先だけが季節を先取りする。夏のあいだ冷房の風を足元で受け続けた体は、秋の入り口で、ためこんだ冷えの請求書を受け取ります。
お灸教室・第7回は、そんな季節の変わり目にふさわしい新しいツボへ。足の内側にある然谷(ねんこく)です。火の扱いが初めての方は第1回を、道具がある方はこのままどうぞ。
「然」は、「燃」が生まれる前の字
然谷の「然」。いまは「自然」「当然」の字ですが、もともとは「もえる」を意味する、燃の原字です。あとから火へんが足されて「燃」が生まれました。「谷」は、くぼみのこと。
つまり然谷とは、燃える谷。足の内側の小さなくぼみに、昔の人はかまどのような名前をつけました。ここは腎経 [1] のツボで、体の火をつかさどる流れの、いわば焚き口にあたる場所です。
面白いのは、この穴が「足の冷え」だけでなく、顔だけがほてる「冷えのぼせ」にも昔から使われてきたこと。足元の火が細くなると、行き場をなくした熱は上へ上へと逃げていきます。顔はほてるのに、足首を触るとひんやり——あの状態です。
だから然谷を温めるのは、単なる加熱ではありません。下の火を起こして、上に逃げた熱を呼び戻す。熱の交通整理なのです。
準備するもの
いつもの4点です。台座付きのお灸、ライター、水を張った小皿、印つけ用のペン。くわしくは第1回をどうぞ。お灸は、煙の出ないタイプならこちら。香りを楽しむタイプ(せんねん灸)との2択の話は、第6回に書いたとおりです。
然谷の見つけ方と、足元に据えるコツ
場所を探します。内くるぶしの斜め前、少し下に、コリッとした骨の出っ張り(舟状骨 [2] )があります。然谷は、その出っ張りのすぐ下のくぼみ。ちょうど、足の甲の皮膚と足裏の皮膚の境目あたりです。
いつもの方針で、教科書の位置は出発点。親指で押して、じんわり響く一点を優先してください。冷えている方は、このあたりの肌が少しかさついていたり、押すと軽い痛みがあったりします。それも目印のうちです。
- 座り方を先に決める。床にあぐら、または椅子で足首を反対の膝に乗せる。足の内側が上を向く姿勢が据えやすいです。
- ツボに印をつける。骨の出っ張りを先に見つけ、そのすぐ下へ小さく一点。
- シールを剥がして指先に貼り、火をつける。先が赤くなれば十分です。
- 髪と袖を確かめてから、印の上へ。足元のお灸は自然と前かがみになります。垂れた髪や袖口が火に近づかないよう、貼る前にひとまとめに。
- 心地よいうちに外す。ここは皮膚の薄い骨のきわ。熱さは早めに来ます。ピリッと感じたら我慢せず、水の皿へ。
いつ据えるか
時間は、あなたが続けやすいときで。お風呂の前後1時間、食事の前後30分は避けてください。靴下を履く前のひと手間、と覚えると秋は続けやすいようです。
安全のためのお約束(毎回同じ8つ+今回のひとこと)
安全のためのお約束(毎回同じ8つ+今回のひとこと)
①熱さを我慢しない(ピリッと来たらすぐ外す)②同じ場所に続けて据えない③顔・粘膜・湿疹や傷のある場所には使わない④妊娠中の方、糖尿病などで感覚が鈍くなっている方、飲酒時・発熱時は自己判断せず、事前に専門家へ相談を⑤換気をして、使用後は水で完全に消火⑥お風呂上がりは皮膚がやわらかく火傷しやすいため避ける(入浴前後1時間空ける)⑦食事の前後30分は避ける(消化のために血流が集まる時間のため)⑧終わったあとにだるさやのぼせ(灸あたり)が出たら、その日は休む。——然谷は骨のきわで皮膚が薄く、熱さを感じやすい場所です。また前かがみで据えるため、髪・袖口を火から離すことを毎回確かめてください。
よくあるつまずき
Q. くぼみがよく分からず、位置が合っているか不安です。
A. くぼみからではなく、骨から探してください。内くるぶしの斜め前下の出っ張りは、誰の足でも必ず触れます。まず骨に親指を当てて、そこからすっと下に滑らせた先が然谷。地図で言えば、目印の建物を先に見つけてから路地に入る順番です。多少ずれても、押して心地よければ大丈夫。
今週の宿題
宿題はひとつ。お風呂の中で、両足の然谷のあたりを親指で押し比べておくこと(お灸は湯上がり1時間は空けてから、別のタイミングで)。左右で冷たさや響きが違うことに気づいたら、次に据えるのは、その冷たい側からです。
火の扱いの復習は第1回、手首の神門は前回・第6回をどうぞ。次回は、新しいツボを覚えない回。増えてきた道具箱の、使い分けの話をします。


