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内くるぶしのすぐ上を、指でそっと押してみてください。すねの骨の内側のきわに沿って、じんと響く場所や、少しへこんで気持ちいいところはありませんか。
そのあたりに、眠りと縁の深いツボがあります。名前を三陰交(さんいんこう)といいます。
第1回は火の扱いだけ、第2回は手の合谷で据える練習をしました。今回はいよいよ、眠りのためのツボにお灸をしていきます。ただしその前に、この教室でいちばんお伝えしたいことがひとつあります。
ツボは、教科書の点そのままとは限らない
ツボの場所は、本や図では小さな「点」で描かれます。だから、その一点をぴたりと当てないと効かない——そう思って、自信をなくす方がとても多いのです。
でも、実際に施術室で「三陰交を探してみてください」とお願いすると、教科書の場所より少し下や、骨のきわの後ろを指す方がほとんどです。そしてその方が指した場所のほうが、たいてい正しい。
ツボは、印刷された点ではなく、体の反応がある場所だからです。押すとじんと響く、だるい、痛気持ちいい。その手ごたえのあるところが、その日のあなたの三陰交。左右で少しずれることも、日によって変わることもあります。
だからこの回のタイトルは「指で聞いてから決める」。位置を暗記するより、指で押して体の返事を聞くほうが確かなのです。料理の味見に似ています。レシピの分量は目安で、最後はひと口なめて決める。あの感覚に近いものです。
三陰交——三つの道が集まる、足首の合流点
名前の由来から。三陰交は文字どおり、「三つの陰の道が交わる」ツボです。足の内側には、東洋医学でいう三本の経絡——脾(ひ)・肝(かん)・腎(じん)の道が通っていて、この足首の内側で一度、合流します。
三本の川が一点で合わさる場所を想像してみてください。合流点は水量が豊かで、そこに手を入れると、上流の三本すべてに働きかけられる。三陰交が「万能穴」と呼ばれてきたのは、この合流の要所だからです。
では、なぜこの三本が眠りに関わるのか。ここが、多くの記事が「不眠に効きます」で止まってしまうところです。もう一歩だけ、奥へ進みます。
東洋医学では、夜は「血(けつ)」が肝に還って、体を休ませる時間と考えます。この血をせっせと作るのが脾。体の芯を温め、下半身に根を張らせるのが腎。眠りは、この三つの働きがそろって初めて、深くなります。
ところが、脾が疲れて血が足りないと、夜になっても肝に還る血が心もとない。すると体の緊張がほどけません。さらに腎の温めが弱ると足元が冷え、温かい気血が下半身に下りてこない。行き場をなくした熱は上へのぼり、頭だけが冴えて、目が閉じても眠れない——あの夜になります。
三陰交は、その脾・肝・腎を一度に取りなせる交差点。だから眠りの「土台」に関わるのです。ここを温めることは、三本の道すべてに、そっと火を入れることになります。
お灸の準備をする
用意するものは、第1回・第2回と同じ、台座のついた市販のお灸ひとつだけ。今回は、香りとタイプの違う二種類をご紹介します。どちらが良い悪いではなく、好みで選んでいいのがお灸の楽しいところです。
ひとつは、煙の出ないタイプ。マンションやにおいの残りが気になる方、寝る前の寝室で使いたい方に向いています。
もうひとつは、香りつきで、やわらかな煙の立つタイプ。よもぎの香りや、ほのかなアロマの香りがして、火を近づける時間そのものが、ひと息つく合図になります。はじめての方向けに、温度がやさしく設計されています。
香りに包まれたい日と、煙を気にせず静かに温めたい日。両方を持っておくと、その日の気分で選べます。
指で聞いて、自分の三陰交を見つける
いよいよ本題です。まずは大まかな見当をつけ、そこから指で微調整します。
- 内くるぶしのてっぺんに、小指をあてる。そこから指を4本そろえて、すねに向かってまっすぐ上へ。人差し指がふれたあたりが、おおよその高さです。
- すねの骨の、内側のきわへ指をずらす。硬い骨のうしろの、少しやわらかいくぼみ。前すぎると骨の上に乗ってしまうので、「骨のきわの、すぐ後ろ」を意識します。
- そのあたりを、ゆっくり押して回る。じんと響く、だるい、痛気持ちいい——体が返事をする一点を探します。教科書の場所とずれても、かまいません。あなたの指が見つけたそこが、今日の三陰交です。
見つけたら、油性ペンで小さく印をつけておくと、お灸のときに迷いません。
お灸を据える
据え方は、第2回の合谷とまったく同じです。シールを剥がして印の上に貼り、火をつける。あとは「温かくて気持ちいい」を味わうだけ。ただし足首は手より皮膚が薄いので、チリッときたら我慢せずすぐにはがしてください。片足に1〜2個、左右で終わり。使い終わったら、水で完全に消します。
物足りないくらいで、ちょうどいいのです。足りない分はあとで足せますが、やりすぎた熱は戻せません。
いつ据えると続けやすいか
おすすめの時間は、「これなら毎日できそう」とあなたが思える時間帯です。夜のニュースのあいだ、歯みがきの前、布団に入る少し前。生活の中の”すでにある習慣”にくっつけると、忘れにくくなります。
ひとつだけ避けたいのが、お風呂上がりすぐ。入浴直後は皮膚がやわらかく、汗ばんで、やけどをしやすくなります。お灸は入浴の前後1時間ほどを空けてください。
お灸の前に、必ず読んでほしい安全のこと
1. 熱さを我慢しない。チリッときたらすぐはがす。熱いほど効くわけではありません。
2. 同じ場所に、続けて何個も据えない。皮膚を休ませながら行います。
3. 顔・粘膜・湿疹・傷のある場所には使わない。
4. 妊娠中の方は、三陰交へのお灸を避けてください。三陰交は昔からお産に関わるツボとされ、妊娠中は使わないのが約束ごとです。ほかにも糖尿病などで感覚が鈍い方、飲酒後、発熱時は、事前に専門家へご相談を。
5. 換気をして、使い終わりは水で完全に消火する。
6. お風呂上がりすぐは避ける(入浴の前後1時間を空ける)。皮膚がやわらかく、やけどしやすいためです。
7. お灸のあと、だるさやのぼせを感じることがあります(灸あたり)。その日は無理をせず、水分をとって休んでください。
よくあるつまずき
Q. 押しても、じんと響く場所がよく分かりません。
A. 冷えが強い日や、疲れがたまっている日ほど、反応が鈍くなることがあります。分からないときは、無理に一点を決めず、内くるぶしから指4本上・骨のきわ、というおおよその範囲に据えて大丈夫です。続けるうちに、指のほうが場所を覚えていきます。焦らなくていいのです。
今夜の宿題
今夜の宿題はひとつだけ。お灸はまだしなくていいので、両足の三陰交を、指で探してみること。左右で響き方が違うか、押すとどんな感じがするか。それを確かめるだけで、今日はじゅうぶんです。
三陰交は、冷えや女性のリズムとも縁の深いツボです。足元の冷えが眠りの入り口をふさいでいる方は、更年期世代に増える「眠りの悩み」、その正体とツボでのケアもあわせてどうぞ。
次回は、この三陰交と手をつなぐように働く、もうひとつの眠りのツボをご紹介します。指で聞く練習を続けながら、お待ちください。


